花茗荷  流灯 

 

 草引けば茗荷の花が顔を出す 佳代
 流灯に添ひてゆっくり歩きけり
 流灯の離れたる時風吹けり
 分け入れば土の匂ひや花茗荷 寿美子
 花となる茗荷もつまとなりにけり
 水面へ流灯そっと押し出しぬ 裕子
 呼び合いて流灯二基の寄り添へる
 流灯の瞬きやまず燃えにけり 伊基子
 生きてきし月日の流灯なりしかな
 夕風の土の匂える花茗荷
 流灯の闇の波間に消え行きて 美佐子
 やぶの中かくるる如く花茗荷
 流灯の別れては寄り辿りつつ サヨ
 花茗荷涼しく風にゆられけり 美代子
 流灯や被災地の海ともし火を
 読経終へ一斉に行く流灯かな 恭子
  日当らず茗荷の花の色白し
 花茗荷咲いてつぼんでケセラセラ 照子
 流灯の影追ふ月の光かな
 流灯の終のひとつに手を振りて


木下闇  蛇

 蛇泳ぐ一直線に池の中 美佐子
 下闇のうす暗がりの峠茶屋
 木下闇歴史を秘めてゐたるかな 伊基子
 影と影踏みつけていく木下闇
 木下闇潜り抜ければ眩くも 美代子
 南国の食卓の蛇知らず喰ぶ
 広野原蛇に出くはし一歩引く 寿美子
 杖をおく寄らば大樹の木下闇
 しっかりと手を握り合ひ木下闇 照子
 木下闇抜けてこころのほどけたる
 蛇いじめ神の使ひと子に諭し 恭子
 木下闇舞い降りさうな天狗かな
 木下闇入りても雨の容赦なく 佳代
 木漏れ日に映る日食木下闇
 勝手口蛇悠然と横切れる 裕子
 木下闇万葉の池澱みけり

5月
母の日 ・ 牡丹


 人去って静寂戻る牡丹寺 佳代
 母の日やしゃべり方まで母に似て
 母の日に子が描きくれし笑い顔 照子
 ささやかな風にもくずれ初む牡丹 
 ぼうたんにせつなきまでの風当たり
 母の日は妣想い出す日となりし 裕子
 咲き初むと来し牡丹園まだ蕾
 一本の緋牡丹飽かず眺めをり
 父の忌を待つかにひらく牡丹かな 伊基子
 牡丹の色を絵筆に遺しけり
 牡丹の雨の兆しにゆれゐたり
 母の日の母と呼ばれて半世紀  美佐子
 一と夜明けぼうたん蕊を残すのみ
 雨兆すぼうたん剪るも惜しみけり
 額に入る少しピンクの白牡丹 寿美子
 大牡丹優雅の極み風薫る
 母の日の子らにもらいし宝物 美代子
 前栽に抱えきれない牡丹咲き サヨ
 母の日やうなぎ一匹平らげし 恭子

  4月 
 
桜草 ・ 入学

 顔少し大人びて見ゆ入学児 照子
   風そよぐたびにふわふわ桜草
 風吹けば風にしたがふ桜草
 昨日けふ寒さばかりの桜草 サヨ
 ランドセル大きく見える新入児
 肩までの背の子と並ぶ入学子 裕子
 薄桃の風にふるへる桜草 
 初々し服大きめの入学児 美代子
 入学の思い出となるビデオ撮り
 こぼれ種あちらこちらに桜草    美佐子
  転地先不安まじりの入学子
 入学児防犯ブザーの止められず
 先生も名札をつけて一年生 伊基子
 さくら草ちょっぴり寒い朝の風
 朝よりも夕べ色濃しさくら草
 新入生心ときめくクラス割り 佳代
 桜草一足早く咲きこぼれ
 人生を一歩踏み出す入学式 寿美子
 はんなりと垣根の内に桜草
  待ち受けしクラブ勧誘入学式 恭子

3月
 
蘆の角 ・ 春障子

 蘆の角小さき魚の影よぎる 佳代
 春障子小鳥の影が横切って
 嫁ぐ日の長持ち歌や春障子 寿美子
 のんびりと猫の背伸びや春障子
 釣り人の踏みいためたる蘆の角 サヨ
 薄ほこり留りやすくも春障子 
 結納を飾りてゐたる春障子 伊基子
 春障子話の尽きぬ一日かな
 蘆の角泥に射し込む朝日かな
  蘆の角つんつんと天に伸び 恭子
 軽やかにパタパタはたく春障子
 蘆の角淀める水面突き破り 美佐子
 蘆の角何か蠢く汀かな
 開け放つ日当たる縁に春障子
 山を背に水面に写す蘆の角 美代子
 幼子のつたひ歩きの春障子
 やわらかき日差しの反射春障子 照子
 古民具の似合ふ老舗の春障子 裕子

2月
バレンタインデー・雛菊

 雛菊や百まで生きるつもりあり 伊基子
 教室のざわめくバレンタインの日
 猫の墓あたり雛菊ひろごれる
 お見舞いに雛菊束ねリボン掛け 恭子
 園庭の雛菊咲きておゆうぎ会
 雛菊の日当たる苑を訪ひにけり 美佐子
 ミサ曲の流るるバレンタインの日
 デージーの花咲く丘に白い雲 照子
 雛菊や幼心に帰りたく
 高級は自分にバレンタインチョコ 美代子
 本命はバレンタイン日手紙添へ
 ひなぎくやひとりの窓に陽を余し 佳代
 デイジーや村の教会仰ぎ見る
 雛菊の日時計まるきふち取りて 裕子
 父と子に同じバレンタインチョコ
 ひな菊や愛らしく咲き鉢植えに サヨ
 義理チョコの嬉しいバレンタインの日 寿美子
 はばからず渡せるバレンタインの日